堀田量子第五章(物理量の相関と量子もつれ)posi的備忘録

5.1 相関と合成系量子状態

5.1.1スピン相関と確率分布
 系$A$と系$B$の物理量の相関が、合成系の物理量の物理量の確率分布を決める重要な情報の一部であることを確かめる。ここでは、$s=±1$をとる$\overrightarrow{n}$方向の$A$のスピン成分$σ(\overrightarrow{n})$を$σ_A$とする。同様に、$s^\prime=±1$をとる$\overrightarrow{n^\prime}$方向の$B$のスピン成分$\overrightarrow{\sigma}_n$を$σ_{B^\prime}$とする。合成系の量子状態は$\{p(\sigma_A=s,\sigma^\prime_B=s^\prime)|s,s^\prime\in{+1,-1},||\overrightarrow{n^\prime}||=1\}$という確率分布の集合が定める。一般に、合成系の量子状態トモグラフィーは、部分系の物理量の同時測定によって行えることが知られている。

 さて、確率分布が与えられたとき、それぞれの物理量の期待値とその相関は次のように定義される。


\begin{eqnarray*}
\langle \sigma_A \rangle &=& \sum_{ss^\prime}sp_{ss^\prime} \\
\langle \sigma^\prime_B \rangle &=& \sum_{ss^\prime}s^\prime p_{ss^\prime} \\
\langle \sigma_A\sigma^\prime_B \rangle &=& \sum_{ss^\prime}ss^\prime p_{ss^\prime}
\end{eqnarray*}

ここで,

\[ p_{ss'}=p(\sigma_A=s,\sigma'_B=s') \]

を用いた。また、確率の定義式

\[ \sum_{ss^\prime}p_{ss^\prime}=1 \]

も成り立っている。このとき,$ p_{ss^\prime}$を各物理量の期待値と相関を用いて表すと,

\[ p_{ss^\prime} = \frac{1}{4} + \frac{s}{4} \langle \sigma_A \rangle + \frac{s'}{4} \langle \sigma '_B \rangle + \frac{ss'}{4}\langle \sigma_A\sigma^\prime_B \rangle \]

となる。

$s, s^\prime=±1$を用いてあらわに書き下せば、次の連立方程式を満たす$ p_{ss^\prime}$を求めればよい。

\[
\begin{pmatrix}
-1 & -1 & +1 & +1 \\
-1 & +1 & -1 & +1 \\
+1 & -1 & -1& +1 \\
+1 & +1 & +1 & +1 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
p_{-1-1}\\
p_{-11}\\
p_{1-1}\\
p_{11}
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\langle \sigma_A \rangle\\
\langle \sigma^\prime_B \rangle\\
\langle \sigma_A\sigma^\prime_B \rangle\\
1
\end{pmatrix}
\]

掃き出し法などによって$p_{ss'}$を計算すると

\[
\begin{pmatrix}
p_{-1-1}\\
p_{-11}\\
p_{1-1}\\
p_{11}
\end{pmatrix}
=
\frac{1}{4}
\begin{pmatrix}
-1 & -1 & +1 & +1 \\
-1 & +1 & -1 & +1 \\
+1 & -1 & -1& +1 \\
+1 & +1 & +1 & +1 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\langle \sigma_A \rangle\\
\langle \sigma^\prime_B \rangle\\
\langle \sigma_A\sigma^\prime_B \rangle\\
1
\end{pmatrix}
\]

となり、まとめると、

\[ p_{ss^\prime} = \frac{1}{4} + \frac{s}{4} \langle \sigma_A \rangle + \frac{s'}{4} \langle \sigma '_B \rangle + \frac{ss'}{4}\langle \sigma_A\sigma^\prime_B \rangle \]

であることが分かる。

Memo:
($s, s'=\pm 1$の特別な場合にのみ使える計算なので、個人的にはもう少し一般化したい。ただ、第3章にあるように、原理的に物理量をどんな実数値に定めてもよいので、これでも十分一般的なのだと思う。おそらく、線形代数をうまく使えば、$s$をあらわに書き下さなくても、$\sum_s=0$の条件のみから$p_{ss'}$が計算できるのではないかと考えている。)

$p_{ss'}$には相関量の情報が含まれていることに留意する。逆に言えば、相関がない場合は部分系のそれぞれで期待値を計算すればよい。期待値をとる操作は線形性を持つことから

\[ p_{ss'}=\left\langle \left(\frac{1}{2}(1+s\sigma_A)\right)\left(\frac{1}{2}(1+s'\sigma'_B)\right) \right\rangle \]

とも書ける。つまり合成系の量子状態の確率分布は、部分系の確率分布の積のように書ける。この関係は後にボルン則によって改めて表現しなおす。

5.1.2 相関と合成系の密度演算子

 合成系においても、それぞれの部分系では方向量子化されている$\sigma_A,\sigma'_B$が期待値のレベルではベクトル性を回復していることが、実験的に確かめられている。すなわち、

\begin{equation}
\langle \sigma_A \rangle = n_x \langle \sigma_{xA} \rangle + n_y \langle \sigma_{yA} \rangle + n_z \langle \sigma_{zA} \rangle
\end{equation}

\begin{equation}
\langle \sigma_B' \rangle = n_x' \langle \sigma_{xB'} \rangle + n_y' \langle \sigma_{yB'} \rangle + n_z' \langle \sigma_{zB'} \rangle
\end{equation}

が成り立っている。ここで、第2章の議論から、A,Bのそれぞれに対して

\begin{equation}
\sum_{a=x,y,z} \langle \sigma_{aA} \rangle^2 \leq 1
\end{equation}

\begin{equation}
\sum_{b=x,y,z} \langle \sigma_{bB} \rangle^2 \leq 1
\end{equation}

が成り立っていなければならない。一方、相関量の期待値に対しても同様にベクトル性が回復し、

\begin{equation}
\langle \sigma_A \sigma_B' \rangle = \sum_{a=x,y,z} n_a \sum_{b=x,y,z} n_b' \langle \sigma_{aA} \sigma_{bB'} \rangle
\end{equation}

の関係が成り立つことが、実験的に知られている。よって、合成系の状態(すなわち各状態の確率分布)を決めるためには、

\begin{equation}
\{\langle \sigma_{aA} \rangle, \langle \sigma_{bB} \rangle, \langle \sigma_{aA} \sigma_{bB'} \rangle | a,b=x,y,z \}
\end{equation}

だけの(実験で決まる)情報で済む。この情報を埋め込んだ密度行列を、次のように定義できる。

\begin{equation}
\hat{\rho}_{AB} = \frac{1}{4} \left( \hat{I} \otimes \hat{I} + \sum_{a=x,y,z} \langle \sigma_{aA} \rangle \hat{\sigma}_{aA} \otimes \hat{I} + \sum_{b=x,y,z} \langle \sigma_{bB} \rangle \hat{I} \otimes \hat{\sigma}_{bB} + \sum_{a=x,y,z} \sum_{b=x,y,z} \langle \sigma_{aA} \sigma_{bB} \rangle \hat{\sigma}_{aA} \otimes \hat{\sigma}_{bB} \right)
\end{equation}

と書ける。2章でみたように、ここでも

\begin{eqnarray*}
\underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{\sigma}_{aA} \otimes \hat{I}) \right] &=& \langle \sigma_{aA} \rangle \\
\underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{I} \otimes \hat{\sigma}_{bB}) \right] &=& \langle \sigma_{bB} \rangle \\
\underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{\sigma}_{aA} \otimes \hat{\sigma}_{bB}) \right] &=& \langle \sigma_{aA} \sigma_{bB} \rangle
\end{eqnarray*}

のようにそれぞれの情報が復元できる。

5.1.3 合成系におけるボルン則

$\sigma_{A}$と$\sigma_{B}'$のそれぞれに
\begin{eqnarray}
\hat{\sigma}_{A} &=& n_{x} \hat{\sigma}_{xA} + n_{y} \hat{\sigma}_{yA} + n_{z} \hat{\sigma}_{zA} \
\hat{\sigma}_{B}' &=& n_{x}' \hat{\sigma}_{xB} + n_{y}' \hat{\sigma}_{yB} + n_{z}' \hat{\sigma}_{zB}
\end{eqnarray}
を対応させる。相関量に対しても
\begin{equation}
\hat{\sigma}_{A} \otimes \hat{\sigma}_{B}' = \sum_{a=x,y,z} n_{a} \sum_{b=x,y,z} n_{b}' \hat{\sigma}_{aA} \otimes \hat{\sigma}_{bB}
\end{equation}
を対応させる。これらの定義とトレースの線形性を用いれば、
\begin{eqnarray}
\langle \sigma_{A} \rangle &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{\sigma}_{A} \otimes \hat{I}) \right] \\
\langle \sigma_{B}' \rangle &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{I} \otimes \hat{\sigma}_{B}') \right] \\
\langle \sigma_{A} \sigma_{B}' \rangle &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} (\hat{\sigma}_{A} \otimes \hat{\sigma}_{B}') \right]
\end{eqnarray}
という関係が示せる。この結果を用いると、確率分布は
\begin{equation}
p_{ss'} = \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{A}) \right) \otimes \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{B}') \right) \right]
\end{equation}
と書き換えられる。4章で導入した射影演算子$\hat{P}_{A}(s) = \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{A})$等を用いると、
\begin{equation}
p_{ss'} = \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} \left( \hat{P}_{A}(s) \otimes \hat{P}_{B}'(s') \right) \right]
\end{equation}
というボルン則が導かれる。

5.2 もつれていない状態

5.2.1 LOCCと古典相関
このセクションは単に言葉の定義だと思ってもよい。今まで合成系を考えるときは、単にそれぞれの部分系の測定を行ってきた。今度は、片方の系の測定結果が他方の測定に影響を及ぼす場合を考える。
量子もつれとは、古典力学にはなかった物理量の相関の一種である。そこで、量子もつれを持つ量子状態を定義するために、最初に量子もつれを持たない状態を定義する。

アリスが量子系$A$を持ち、アリスから十分(互いの量子系が影響を及ぼさない程度に)離れた場所にいるボブが量子系$B$を持つとする。この二人の間では情報媒体として光子などの量子系を送ることはできず、$0, 1$からなるビット列のみを交換できるとき、この通信を古典通信(classical communication)と呼ぶ。また、相手の系から送られてくる情報に基づいて自分の系に任意の操作を施せるとする。このとき、自分の系のみを操作することを局所操作(local operation)と呼ぶ。特に、古典通信を用いて情報をやり取りし局所操作を行う一連の流れをLocal Operation and Classical Communicationの略字としてLOCCと呼ぶ。LOCCを用いることで、初期時刻に$A$と$B$の物理量にまったく相関がなくても、新たに相関を作ることができる。LOCCによって作られる相関を古典相関と呼ぶ。

5.2.2 任意の局所的操作の実在性

最初に$A$だけを考える。その初期量子状態を$\hat{\rho}_{A}(0)$として$z$軸方向上向きのスピン純粋状態$\lvert + \rangle \langle + \rvert$を考えよう。これを任意の量子状態$\hat{\rho}_{A}$にするには次のように操作を行えばよい。
まず、ゴールとなる状態を$\hat{\rho}_{A}$のスペクトル分解$p_{0} \lvert \psi_{0} \rangle \langle \psi_{0} \rvert + p_{1} \lvert \psi_{1} \rangle \langle \psi_{1} \rvert$を考え、$p_{0} + p_{1} = 1$を満たす非負の実数であるその固有値$p_{0}, p_{1}$を用いて
\begin{eqnarray}
\lvert p_{0} \rangle &=& \sqrt{p_{0}} \lvert + \rangle - \sqrt{p_{1}} \lvert - \rangle \
\lvert p_{1} \rangle &=& \sqrt{p_{0}} \lvert + \rangle + \sqrt{p_{1}} \lvert - \rangle
\end{eqnarray}
という互いに直交する単位ベクトルを作る。これに対して
\begin{eqnarray}
\hat{\sigma}_{p} = (+1)\lvert p_{0} \rangle + (-1)\lvert p_{1} \rangle
\end{eqnarray}
というエルミート行列を定義する。この式から、$z$軸の正の方向を$\lvert p_{0} \rangle$方向に向けたSG実験によって測定できることが分かる。すると、ボルン則から確率$p_{0}$で量子状態$\lvert p_{0} \rangle$となる。同様に確率$p_{1}$で量子状態$\lvert p_{1} \rangle$となり、測定後にこの確率で平均化された状態は
\begin{eqnarray}
\hat{\rho}_{A}(t') = p_{0} \lvert p_{0} \rangle \langle p_{0} \rvert + p_{1} \lvert p_{1} \rangle \langle p_{1} \rvert
\end{eqnarray}
となる。ここで、$\lvert p_{0} \rangle, \lvert p_{1} \rangle$と$\lvert \psi_{0} \rangle, \lvert \psi_{1} \rangle$も同じ2次元複素ベクトル空間の正規直交基底であるから、互いに変換するユニタリー行列$\hat{U}_{A}$が存在し、$\lvert \psi_{b} \rangle = \hat{U}_{A} \lvert p_{b} \rangle$となる。平均操作の後で$\hat{U}_{A}$に対応する空間回転の操作をスピン$A$に施せば、
\begin{eqnarray}
\hat{U}_{A} \hat{\rho}_{A} \hat{U}_{A}^{\dagger} = p_{0} \lvert \psi_{0} \rangle \langle \psi_{0} \rvert + p_{1} \lvert \psi_{1} \rangle \langle \psi_{1} \rvert = \hat{\rho}_{A} \end{eqnarray}
となって希望した量子状態$\hat{\rho}_{A}$が実現する。

Memo

$\lvert p_{0} \rangle, \lvert p_{1} \rangle$を$\lvert \psi_{0} \rangle, \lvert \psi_{1} \rangle$に変換するユニタリー行列が存在することは分かる。ここで疑問が2点ある。
① ユニタリー行列が空間回転に対応するのは自明か
② 空間回転になるとするならば、SG測定器を最初からその方向に向けておけばよいのではないか

以下に現状の“妄想”を述べる。
①今回例に挙げているスピンはSG実験によって測定され、すべての“方向”に量子された状態はSG測定機の空間回転によって作り出すことができるから。あるいはもっと広く、量子状態は基準測定によって定義されるため、必ず物理量に対応した測定が行われ(る前提で)、その向きによってすべての量子状態をとれるから。二次の疑問としては、基準測定によって定義されない量子状態は存在するのか(考える意味はあるのか)、もしかして$\lvert p_{0} \rangle, \lvert p_{1} \rangle$を$\lvert \psi_{0} \rangle, \lvert \psi_{1} \rangle$にするユニタリー行列はその位相を除いて一意に決まるから、実に取れば常に空間回転に対応する?

②ユニタリー行列が常に空間回転に対応するならば、SG測定機の空間回転によってすべての量子状態が生成できるはずで、一度平均化した後に空間回転を行うのがこれではわからない。最初からSG測定器を$\lvert \psi_{0} \rangle, \lvert \psi_{1} \rangle$に向ければよいのではないか。$\lvert p_{0} \rangle, \lvert p_{1} \rangle$によって生成される量子状態の式
\begin{eqnarray}
\lvert p_{0} \rangle &=& \sqrt{p_{0}} \lvert + \rangle - \sqrt{p_{1}} \lvert - \rangle \
\lvert p_{1} \rangle &=& \sqrt{p_{0}} \lvert + \rangle + \sqrt{p_{1}} \lvert - \rangle
\end{eqnarray}
を見ると、これはおそらく$z$を含む平面(それも進行方向に垂直な面、ここでは進行方向を$x$に取る)の上で定義されている。これはたぶんSG実験の制約から来ている。粒子の進行方向に対して垂直に磁場をかけるのがSG実験であれば、進行方向と平行な成分の量子状態は作成できず、そもそも進行方向に平行な磁場発生機を置けば、粒子生成機ごと磁場をかけるなどしないと粒子の進路を妨害するし、測定も単に検出面に粒子が来るかどうかではなく、検出面に到達する時間(あるいは速度)が変わることをもって2つの量子状態を区別することになるだろう。ということで、$yz$面上に存在する量子状態であれば平均化後のユニタリー変換はいらないが、$x$成分を持つような任意の量子状態まで考えると、SG実験の制約からSG実験のみでそのような量子状態を実験系の(空間回転以外の)変更を加えることなく生成することは不可能で、空間回転が必要になる、ということなのだろう。

ユニタリー行列が空間回転によって定義できるなら、任意の既知の量子状態を別の任意の量子状態に対応付けるユニタリー行列が存在し、それに対応する空間回転によって実現できる。また、未知の量子状態であってもSG実験によって$z$成分を測定すれば、ある確率で$\lvert - \rangle$が測定されるが、$\lvert - \rangle$に対してユニタリー行列$\hat{\sigma}_{x}$を考え、対応する空間回転を施せば量子状態を$\hat{\sigma}_{x} \lvert - \rangle \langle - \rvert \hat{\sigma}_{x}^{\dagger} = \lvert + \rangle \langle + \rvert$によって変換でき、100%の確率で$\lvert + \rangle$とするような局所操作が存在する。同様のことはスピン$B$でも可能であるが、$\lvert + \rangle \langle + \rangle \otimes \lvert - \rangle \langle - \rangle$という状態にある$A, B$に対する局所操作からは、$\hat{\rho} \otimes \hat{\rho}'$という形の状態しか作れない。このような状態を直積状態と呼ぶ。直積状態に対して任意の物理量$\hat{O}_{A}, \hat{O}_{B}'$に対する相関量の期待値を計算すると、 \begin{eqnarray} \langle O_{A} O_{B}' \rangle &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ (\hat{\rho} \otimes \hat{\rho}')( \hat{O}_{A} \otimes \hat{O}_{B}') \right] - \underset{A}{\text{Tr}} [ \hat{\rho}_{A} \hat{O}_{A}] \cdot \underset{B'}{\text{Tr}} [ \hat{\rho}_{B}' \hat{O}_{B}'] \\
&=& \underset{A}{\text{Tr}} [ \hat{\rho} \hat{O}_{A}] \cdot \underset{B'}{\text{Tr}} [ \hat{\rho}' \hat{O}_{B}'] - \underset{A}{\text{Tr}} [ \hat{\rho}_{A} \hat{O}_{A}] \cdot \underset{B'}{\text{Tr}} [ \hat{\rho}_{B}' \hat{O}_{B}'] \\
&=& 0
\end{eqnarray}
となるから、相関が全く存在しない。つまり、片方の系の測定による他方の系の物理量の値の非自明な予言もできない。

5.2.3 分離可能状態

相関を作るために、次のようなLOCCを行う。合成系の初期状態が$\lvert + \rangle \langle + \rvert \otimes \lvert + \rangle \langle + \rvert$という相関のない状態であったとする。次に$A$に対してアリスは$\hat{\sigma}_{p}$を観測する。すると確率$p_{0} (p_{1})$で$\hat{\sigma}_{p} = +1 (-1)$が観測され、その結果$\lvert p_{0} \rangle \langle p_{0} \rvert \otimes \lvert + \rangle \langle + \rvert (\lvert p_{1} \rangle \langle p_{1} \rvert \otimes \lvert + \rangle \langle + \rvert)$という状態が実現する。そしてアリスは自分の局所操作$\Gamma_{0}^{(A)}$で状態$\lvert p_{0} \rangle \langle p_{0} \rvert (\lvert p_{1} \rangle \langle p_{1} \rvert)$を量子状態$\hat{\rho}^{(0)}$にする。また、アリスは観測された$\hat{\sigma}_{p} = p = (-1)^{p} (p = 0, 1)$を古典通信でボブに伝える。ボブはそれを受けて、局所操作によって$B$の量子状態$\lvert + \rangle \langle + \rvert$を量子状態$\hat{\rho}^{(0)}$に変えるとする。その結果、確率$p_{0}(p_{1})$で合成系の直積状態$\hat{\rho}^{(0)} \otimes \hat{\rho}'^{(0)} (\hat{\rho}^{(1)} \otimes \hat{\rho}'^{(1)})$を実現できる。したがって、このLOCC過程の最後には、平均状態として
\begin{equation}
\hat{\rho}_{AB} = p_{0} \hat{\rho}^{(0)} \otimes \hat{\rho}'^{(0)} + p_{1} \hat{\rho}^{(1)} \otimes \hat{\rho}'^{(1)}
\end{equation}
という形の量子状態を作ることができる。ここで、アリスが$p_{0}$で$\hat{\sigma}_{p} = +1$を観測したらボブが状態反転の局所操作を行い、アリスが$p_{0}$で$\hat{\sigma}_{p} = -1$を観測したらアリスが状態反転の局所操作を行うことで、次の状態
\begin{equation}
\hat{\rho}_{AB} = p_{0} \lvert + \rangle \langle + \rvert \otimes \lvert - \rangle \langle - \rangle + p_{1} \lvert - \rangle \langle - \rangle \otimes \lvert + \rangle \langle + \rangle
\end{equation}
を作ったとする。$p_{0} = 1$であれば非自明な相関はなく、測定をせずとも$A$は$z$軸方向の上向き状態、$B$は下向き状態だと最初から分かっているつまらない例となる。しかし、$p_{0}$が$1/2$に近づくにつれて$A, B$の$\hat{\sigma}_{z}$の値は事前に予想できなくなり、測定して初めてその値は確定する。
さて、上記のような状況で「$A, B$の$\hat{\sigma}_{z}$の相関が最大である」と表現したくなるのは「$\hat{\sigma}_{zA}$が$+1, -1$をとる確率がそれぞれ$50\%$、$\hat{\sigma}_{zB}$が$+1, -1$をとる確率がそれぞれ$50\%$であるにも関わらず、$\hat{\sigma}_{zA} (\hat{\sigma}_{zB})$を測定するとその結果から$\hat{\sigma}_{zB} (\hat{\sigma}_{zA})$が完全に予測できる場合」である。実際、$p_{0} = p_{1} = 1/2$とした
\begin{equation}
\hat{\rho}_{AB} = \frac{1}{2} \lvert + \rangle \langle + \rvert \otimes \lvert - \rangle \langle - \rangle + \frac{1}{2} \lvert - \rangle \langle - \rangle \otimes \lvert + \rangle \langle + \rangle
\end{equation}
という状態ではそれが実現している。

ボルン則より、
\begin{eqnarray}
p(\sigma_{zA}=s, \sigma_{zB}=s') &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{zA}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{zB}) \right) \right] \\
&=& \frac{1}{8} \left( \underset{A}{\text{Tr}} \left[ \lvert + \rangle \langle + \rvert (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{zA}) \right] \times \underset{B}{\text{Tr}} \left[ \lvert - \rangle \langle - \rvert (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{zB}) \right] \right) \nonumber \\
&& + \frac{1}{8} \left( \underset{A}{\text{Tr}} \left[ \lvert - \rangle \langle - \rvert (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{zA}) \right] \times \underset{B}{\text{Tr}} \left[ \lvert + \rangle \langle + \rvert (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{zB}) \right] \right) \nonumber \\
&=& \frac{1}{8} \left[ (1 + s)(1 - s') + (1 - s)(1 + s') \right] \nonumber \\
&=& \frac{1}{4} (1 - ss') \nonumber
\end{eqnarray}
ここで、$s, s' = \pm 1$より、
\begin{eqnarray}
p(\sigma_{zA}=s, \sigma_{zB}=s') &=& 0 \quad \text{if} \quad ss' = 1 \\
p(\sigma_{zA}=s, \sigma_{zB}=s') &=& \frac{1}{2} \quad \text{if} \quad ss' = -1
\end{eqnarray}
となる。まとめると、
\begin{equation}
p(\sigma_{zA}=s, \sigma_{zB}=s') = \frac{1}{2} (1 - \delta_{ss'})
\end{equation}
となり、$\sigma_{zA} = +1$なら$\sigma_{zB} = -1$が100%観測され、$\sigma_{zA} = -1$なら$\sigma_{zB} = +1$が100%観測される。

このとき、$\sigma_{xA}$の測定を行っても、$\sigma_{xB}$に関しては何も情報は得られない。

\begin{eqnarray}
p(\sigma_{xA}=s, \sigma_{xB}=s') &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_{AB} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{xA}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{xB}) \right) \right] \\
&=& \frac{1}{8} \left( \underset{A}{\text{Tr}} \left[ \lvert + \rangle \langle + \rvert (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{xA}) \right] \times \underset{B}{\text{Tr}} \left[ \lvert - \rangle \langle - \rvert (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{xB}) \right] \right) \nonumber \\
&& + \frac{1}{8} \left( \underset{A}{\text{Tr}} \left[ \lvert - \rangle \langle - \rvert (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{xA}) \right] \times \underset{B}{\text{Tr}} \left[ \lvert + \rangle \langle + \rvert (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{xB}) \right] \right)
\end{eqnarray}
ここで、
\begin{eqnarray}
\hat{\sigma}_{x} \lvert + \rangle &=& \hat{\sigma}_{x} \frac{1}{\sqrt{2}} (\lvert x_{+} \rangle + \lvert x_{-} \rangle) = \frac{1}{\sqrt{2}} (\lvert x_{+} \rangle - \lvert x_{-} \rangle) = \lvert - \rangle \\
\hat{\sigma}_{x} \lvert - \rangle &=& \hat{\sigma}_{x} \frac{1}{\sqrt{2}} (\lvert x_{+} \rangle - \lvert x_{-} \rangle) = \frac{1}{\sqrt{2}} (\lvert x_{+} \rangle + \lvert x_{-} \rangle) = \lvert + \rangle
\end{eqnarray}
より($\lvert + \rangle$と$\lvert - \rangle$の相対位相は0と置いた)、$\hat{\sigma}_{x}$の項は0となるので
\begin{equation}
p(\sigma_{xA}=s, \sigma_{xB}=s') = \frac{1}{4}
\end{equation}
となり、どんな$s$も片方の測定が他方の測定結果の予測に変化を与えることがない。

Memo

観測結果が他方の測定結果に変更を与えることは、どうもベイズの定理に似ている。うまいこと問題設定をすることによって定式化できるのだろうか。と思ったら、どうも量子ベイズ主義(QBism)なるものがあるらしい。もっとも、その信頼性は確かめられていない。

LOCC過程を多段階的に繰り返してできる状態を考える。この場合、測定結果を表す$0$と$1$のビット列$\mu$に対して
\begin{equation}
\sum_{\mu} p_{\mu} = 1
\end{equation}
を満たす確率分布$p_{\mu}$と、$\mu$に依存した$A, B$の量子状態$\hat{\rho}(\mu), \hat{\rho}'(\mu)$から作られる
\begin{equation}
\hat{\rho}_{AB} = \sum_{\mu} p_{\mu} \hat{\rho}(\mu) \otimes \hat{\rho}'(\mu)
\end{equation}
という形の量子状態が生成できる。二準位だけでなく一般の量子系に対してもこの形の式で書けるとき、$\hat{\rho}_{AB}$は分離可能状態と呼ばれる。直積状態ではない分離可能状態では、$A, B$の間に相関が生まれているが、通信の観点から古典通信のみで状態が生成されているため古典相関しか持たないと解釈される。このことから、$\hat{\rho}_{AB}$は量子的にもつれていない状態の一般系と定義される。なお、$\hat{\rho}_{AB}$が分離可能状態だとしても分解の仕方は一意でなく、複数の分解の仕方があり得る。

5.3 量子もつれ状態

5.3.1 非分離可能状態としての量子もつれ

逆に、$\hat{\rho}_{AB}$が(5.23)式のように書けない場合、その状態を量子もつれ状態と定義する。すなわち量子もつれ状態とは、LOCCでは直積状態から決して作れない量子状態を意味する。情報媒体の量子系を交換する量子通信を採り入れるか、量子系が相互作用する場合に初めて量子もつれが生成する。

5.3.2 状態ベクトルのシュミット分解

シュミット分解とは、「$N_{A} \leq N_{B}$に対して$N_{A}$次元の複素ベクトル空間$V_{A}$と$N_{B}$次元の複素ベクトル空間$V_{B}$の基底のテンソル積によって張られる$N_{A} N_{B}$次元の複素ベクトル空間$V_{AB}$の元$\lvert \Psi \rangle$は、$V_{A}$の正規直交基底$\lvert n \rangle \ (n=1, \ldots, N_{A})$と$V_{B}$の$N_{A}$個の正規直交ベクトル$\lvert u_{n} \rangle$によって
\begin{equation}
\lvert \Psi \rangle = \sum_{n=1}^{N_{A}} \sqrt{p_{n}} \lvert n \rangle \lvert u_{n} \rangle
\end{equation}
と分解できる」という主張である。すなわち$N_{A} N_{B}$次元のベクトル空間の基底が$N_{A}^{2}$個の基底で表現できるということである。

$\lvert \Psi \rangle$に対応する密度演算子$\hat{\rho}_{AB}$に対してその縮約状態とそのスペクトル分解を考える。
\begin{eqnarray}
\hat{\rho}_{A} &=& \underset{B}{\text{Tr}} \left( \lvert \Psi \rangle \langle \Psi \rvert \right) = \sum_{n=1}^{N_{A}} p_{n} \lvert n \rangle \langle n \rvert \\
\hat{\rho}_{B} &=& \underset{A}{\text{Tr}} \left( \lvert \Psi \rangle \langle \Psi \rvert \right) = \sum_{m=1}^{N_{B}} q_{m} \lvert u_{m} \rangle \langle u_{m} \rvert
\end{eqnarray}
ここで、それぞれの固有値は$p_{1} \geq p_{2} \geq \cdots \geq p_{n}, q_{1} \geq q_{2} \geq \cdots \geq q_{m}$を満たしているとする。ところで、$\hat{\rho}_{A}, \hat{\rho}_{B}$の基底のテンソル積は、$\hat{\rho}_{AB}$の基底となるから、$\lvert \Psi \rangle$を展開すれば、
\begin{equation}
\lvert \Psi \rangle = \sum_{n=1}^{N_{A}} \sum_{m=1}^{N_{B}} c_{mn} \lvert n \rangle \lvert u_{m} \rangle
\end{equation}
のように書ける。ここで、その係数$c_{mn}$を$m$行$n$列に入れた$N_{B} \times N_{A}$行列$\hat{C}$を定義する。$\hat{\rho}_{A}$の定義から、
\begin{equation}
\hat{C}^{\dagger} \hat{C} = \begin{pmatrix}
p_{1} & 0 & \cdots & 0 \\
0 & p_{2} & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0\\
0 & \cdots & 0 &p_{n}
\end{pmatrix}
\end{equation}
が成り立つ。ここで、$r_{1} \geq r_{2} \geq \cdots \geq r_{N_{A}}$を満たす$\hat{C}^{\dagger}$の特異値分解
\begin{equation}
\hat{C}^{\dagger} = \hat{V} \begin{pmatrix}
r_{1} & 0 & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\
0 & r_{2} & \cdots & \vdots & \vdots & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0 &\vdots & \ddots & \vdots\\
0 & \cdots & 0 &r_{n} & 0 & \cdots & 0
\end{pmatrix} \hat{W}
\end{equation}
と$\hat{C}$についてのエルミート共軛な関係式を代入すると、
\begin{equation}
\hat{V} \begin{pmatrix}
r_{1}^2 & 0 & \cdots & 0 \\
0 & r_{2}^2 & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0\\
0 & \cdots & 0 &r_{n}^2
\end{pmatrix}
\hat{V}^{\dagger}
=
\begin{pmatrix}
p_{1} & 0 & \cdots & 0 \\
0 & p_{2} & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0\\
0 & \cdots & 0 &p_{n}
\end{pmatrix}
\end{equation}
となる。ここで、両辺を比べると$p_{1} \geq p_{2} \geq \cdots \geq p_{n}$であるから$\hat{V} = \hat{I}_{N_{A} \times N_{A}}, r_{n} = \sqrt{p_{n}}$という関係式を得る。
同様に
\begin{equation}
\hat{C} \hat{C}^{\dagger} = \begin{pmatrix}
q_{1} & 0 & \cdots & 0 \\
0 & q_{2} & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0\\
0 & \cdots & 0 &q_{m}
\end{pmatrix}
\end{equation}
が成り立ち、関係式を代入すると
\begin{equation}
\hat{W}^{\dagger} \begin{pmatrix}
r_{1} & 0 & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\
0 & r_{2} & \cdots & \vdots & \vdots & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0 &\vdots & \ddots & \vdots\\
0 & \cdots & 0 &r_{n} & 0 & \cdots & 0 \\
0 & \cdots & 0 & 0 & 0 & \cdots & 0 \\
0 & \ddots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & \cdots & 0 & 0 & 0 & \cdots & 0 \\
\end{pmatrix} \hat{W} = \begin{pmatrix}
q_{1} & 0 & \cdots & 0 \\
0 & q_{2} & \cdots & \vdots \\
\vdots & \vdots & \ddots & 0\\
0 & \cdots & 0 &q_{m}
\end{pmatrix}
\end{equation}
となる。両辺を比較すれば、$\hat{W} = \hat{I}_{N_{B} \times N_{B}}$と$m \leq N_{A}$に関しては$q_{m} = r_{m}^{2}$、$m < N_{A}$に関しては$q_{m} = 0$という結果を得る。これによって$\hat{C}, \hat{C}^{\dagger}$を決定し、行列成分$c_{mn}$を決定すれば、シュミット分解が証明される。

よって、合成系の純粋状態$\lvert \Psi \rangle_{AB}$のシュミット分解
\begin{equation}
\lvert \Psi \rangle_{AB} = \sum_{n=1}^{N_{A}} \sqrt{p_{n}} \lvert u_{n} \rangle_{A} \lvert v_{n} \rangle_{B}
\end{equation}
が定義できる。ここで、$p_{n}$は$\sum_{n} p_{n} = 1$を満たす確率分布である。係数$\sqrt{p_{n}}$がある$n$のみに対して$1$であるとき$\lvert \Psi \rangle_{AB}$は直積状態であり、量子もつれ状態ではない。それ以外の場合はすべて量子もつれ状態となる。

5.3.3 ベル状態

ここで、二つの二準位スピンの合成系における
\begin{eqnarray}
\lvert \Phi_{-} \rangle_{AB} = \frac{1}{\sqrt{2}} (\lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} - \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B})
\end{eqnarray}
という量子もつれ状態を考える。この状態と分離可能状態との違いを考えるために、$\sigma_{z}, \sigma_{x}$を考えてみる。まず、$\sigma_{zA} = \pm 1$が観測される確率はどちらも50%であり、$\sigma_{zB}$に関しても50%である。分離可能状態と同様に、$p(\sigma_{zA} = s, \sigma_{zB} = s')$を考えると、
\begin{eqnarray}
p(\sigma_{zA} = s, \sigma_{zB} = s') &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \hat{\rho}_{AB} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \left( \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} - \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \right) \left( \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} - \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \right) \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \left( \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} - \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \right. \frac{}{} \right. \nonumber \\
&& \left. \left. - \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} + \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \right) \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right. \nonumber \\
&& \left. - \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right. \nonumber \\
&& \left. - \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right. \nonumber \\
&& \left. + \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
\end{eqnarray}
ここで、
\begin{eqnarray}
&&\frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \right] \lvert + \rangle_{A} \otimes \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \lvert - \rangle_{B} \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \langle + \rvert_{A} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \right] \lvert + \rangle_{A} \otimes \langle - \rvert_{B} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \lvert - \rangle_{B} \right) \\
&=& \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2} + \frac{1}{2} s \right) \times \left( \frac{1}{2} - \frac{1}{2} s' \right) \\
&=& \frac{1}{8} (1 + s)(1 - s')
\end{eqnarray}
のように計算できるので、
\begin{eqnarray}
&&\underset{AB}{\text{Tr}} \left( \hat{\rho}_{AB} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{z}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{z}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{8} (1 + s)(1 - s') + \frac{1}{8} (1 - s)(1 + s') \\
&=& \frac{1}{4} (1 - ss')
\end{eqnarray}
であり、
\begin{equation}
p(\sigma_{zA} = s, \sigma_{zB} = s') = \frac{1}{2} (1 - \delta_{ss'})
\end{equation}
が得られる。一方、$\sigma_{xA}$についても考えると、

\begin{eqnarray}
p(\sigma_{xA}=s, \sigma_{xB}=s') &=& \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \hat{\rho}_{AB} \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{x}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \bigg( \left( \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} - \lvert + \rangle_{A} \lvert - \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \right . \bigg. \\
&-& \left.\left. \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle + \rvert_{A} \langle - \rvert_{B} \right .\right. + \left .\left. \lvert - \rangle_{A} \lvert + \rangle_{B} \langle - \rvert_{A} \langle + \rvert_{B} \right) \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{x}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right] \right) \\
&=& \frac{1}{2} \underset{AB}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{A} \langle + \rvert_{A} \otimes \lvert - \rangle_{B} \langle - \rvert_{B} - \lvert + \rangle_{A} \langle - \rvert_{A} \otimes \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{B} - \lvert - \rangle_{A} \langle + \rvert_{A} \otimes \lvert + \rangle_{B} \langle - \rvert_{B} + \lvert - \rangle_{A} \langle - \rvert_{A} \otimes \lvert + \rangle_{B} \langle + \rvert_{B} \right) \left[ \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{x}) \otimes \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right] \\
&=& \frac{1}{2} \left[ \underset{A}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{A} \langle + \rvert_{A} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_x) \right) \right) \times \underset{B}{\text{Tr}} \left( \lvert - \rangle_{B} \langle - \rvert_{B} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right) \right) \right. \\
&-& \underset{A}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{A} \langle - \rvert_{A} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_x) \right) \right) \times \underset{B}{\text{Tr}} \left( \lvert - \rangle_{B} \langle + \rvert_{B} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}{x}) \right) \right) \\
&-& \underset{A}{\text{Tr}} \left( \lvert - \rangle_{A} \langle + \rvert_{A} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}{x}) \right) \right) \times \underset{B}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle_{B} \langle - \rvert_{B} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right) \right) \\
&+& \left. \underset{A}{\text{Tr}} \left( \lvert - \rangle{A} \langle - \rvert_{A} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s \hat{\sigma}_{x}) \right) \right) \times \underset{B}{\text{Tr}} \left( \lvert + \rangle{B} \langle + \rvert_{B} \left( \frac{1}{2} (\hat{I} + s' \hat{\sigma}_{x}) \right) \right) \right] \\
&=& \frac{1}{2} \left[ \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} - \frac{1}{2} s \times \frac{1}{2} s' - \frac{1}{2} s \times \frac{1}{2} s' + \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \right] \\
&=& \frac{1}{4} (1 - ss')
\end{eqnarray}

となるので,$\sigma_x$に関しても,

\[ p(\sigma_{xA}=s,\sigma_{xB}=s')=\frac{1}{2}(1-\delta_{ss'}) \]

が得られる。この状態は同様に$\sigma_{y}$や連続的に変えられる単位方向ベクトル$\vec{n}$に対する$\sigma(\vec{n})$に対しても最大の相関を持っている。$|\Phi_{-}\rangle_{AB}$以外にも二つのに順位系の最大量子もつれ状態は多数存在し,それらは全てベル状態と呼ばれる。そして,ベル状態毎に決まっている$A$の物理量と$B$の物理量の連続無限個のペアの間に最大の相関が現れる。例えば,

\begin{eqnarray}
|\Psi_{+}\rangle_{AB}&=&\frac{1}{\sqrt{2}}\left( |+\rangle_{A}|+\rangle_B+|-\rangle_A|-\rangle_B \right) \\
|\Psi_{-}\rangle_{AB}&=&\frac{1}{\sqrt{2}}\left( |+\rangle_{A}|+\rangle_B-|-\rangle_A|-\rangle_B \right) \\
|\Phi_{+}\rangle_{AB}&=&\frac{1}{\sqrt{2}}\left( |+\rangle_{A}|-\rangle_B-|-\rangle_A|+\rangle_B \right)
\end{eqnarray}

などもベル状態であり、これらの4つのベル状態は4次元複素ベクトル空間の基底をなしている。一般のベル状態はこの4つのどれか一つのベル状態に局所的ユニタリー行列$\hat{U}_{AB}=\hat{U}_A\otimes\hat{U}_B$を作用させて作られる。第一章でみたように、ベル状態はベル不等式やCHSH不等式を破り、量子的相関の強さの原理的な限界であるチレルソン限界も達成している。

5.3.4 純粋状態の量子もつれ指標

二体系量子もつれは定量化が可能である。例えば、純粋状態の場合、エンタングルメントエントロピー(Entanglement entropy, EE)は量子もつれの指標の一つとして有名である。その定義はシュミット分解の係数$p_n$を用いて

\[ S_{EE}(A:B)=-\sum^{N_A}_{n=1}p_n\rm{ln}p_n \]

で定義される。この式は$A$と$B$の縮約状態$\hat{\rho}_A, \hat{\rho}_B$を用いて

\[ S_{EE}(A:B)=-\underset{A}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_A\rm{ln}\hat{\rho}_A \right] =-\underset{B}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_B\rm{ln}\hat{\rho}_B \right] \]

と書ける。

シュミット分解を用いれば縮約状態$\hat{\rho}_A$は

\[ \hat{\rho}_A=\sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| \]

と書ける。この時,${\rm ln}(1+x)$の$x=1$でのテイラー展開を用いて

\[ {\rm ln}\hat{\rho}_A = \left[ \left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)
- \frac{1}{2!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)^2
+\frac{1}{3!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)^3
- \cdots \right] \]

と定義されている。特に,

\begin{eqnarray}
\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n|\right)^2&=&\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n|\right)\left( \sum^{N_A}_{m=1}p_n|u_m\rangle\langle u_m|\right) \\
&=&\sum^{N_A}_{n=1}p_n^2|u_n\rangle\langle u_n|
\end{eqnarray}

であることに注意すると,

\begin{eqnarray}
-\underset{A}{\text{Tr}} \left[ \hat{\rho}_A\rm{ln}\hat{\rho}_A \right] &=& -\underset{A}{\text{Tr}} \left[ \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n|\left[ \left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)
- \frac{1}{2!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)^2
+\frac{1}{3!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| -1\right)^3
- \cdots \right] \right] \\
&=& -\underset{A}{\text{Tr}} \left[ \left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^2|u_n\rangle\langle u_n| - \sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| \right) \right. \\
&-&\frac{1}{2!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^3|u_n\rangle\langle u_n| -2 \sum^{N_A}_{n=1}p_n^2|u_n\rangle\langle u_n|+\sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n|\right) \\
&+& \left. \frac{1}{3!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^4|u_n\rangle\langle u_n| -3\sum^{N_A}_{n=1}p_n^3|u_n\rangle\langle u_n|+3\sum^{N_A}_{n=1}p_n^2|u_n\rangle\langle u_n|-\sum^{N_A}_{n=1}p_n|u_n\rangle\langle u_n| \right) - \cdots \right] \\
&=& \left[ \left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^2 - \sum^{N_A}_{n=1}p_n \right) \right. \\
&-&\frac{1}{2!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^3 -2 \sum^{N_A}_{n=1}p_n^2+\sum^{N_A}_{n=1}p_n\right) \\
&+& \left. \frac{1}{3!}\left( \sum^{N_A}_{n=1}p_n^4 -3\sum^{N_A}_{n=1}p_n^3+3\sum^{N_A}_{n=1}p_n^2-\sum^{N_A}_{n=1}p_n \right) - \cdots \right] \\
&=&-\sum^{N_A}_{n=1}p_n\left[ (p_n-1)-\frac{1}{2!}(p_n-1)^2+\frac{1}{3!}(p_n-1)^3-\cdots\right]\\
&=&-\sum^{N_A}_{n=1}p_n{\rm ln}p_n
\end{eqnarray}

となり示された。$B$についても同様である。

ここで,式に現れた$S=-{\rm Tr} \left[ \hat{\rho} {\rm ln}\hat{\rho}$を一般にフォン・ノイマンエントロピーと呼ぶ。$EE$は$A$と$B$の合成系の純粋状態を別の純粋状態に変換する任意のLOCCでは増加しないことが証明されている。

二準位系の場合,先ほど見たように$EE$は最大量子もつれ状態であるベル状態の場合に最大値$\{\rm ln} 2$を達成し,相関を全く持たない直積状態の場合に最小値0をとる。この意味で量子もつれを定量化できた。なお$EE$は,混合状態ではLOCCによって増加しないという性質が壊れるため、混合状態の量子もつれの指標にはならない。混合状態でもLOCCでの非増加性を保つ量子もつれ指標としては、negativityや対数negativityが知られている。

5.4 相関二乗和の上限

第15章の例を見てから記載する。

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